過去のベーシックインカム実験で人々が怠惰になった例はない
-
16,149
- Lucas Ropek – Gizmodo US
- [原文]
- ( 福田ミホ )
みんな元気になるし、怠惰にはならない、と。
車を動かしたり気の利いた文章を書いたりコーディングしたり、AIにいろんな作業ができるようになった今、「仕事を奪われる」懸念がリアルになりつつあります。その先には新たな仕事が生まれるかもしれませんが、一時的にせよ失業する人が増えるかもしれません。そんな移行期にもすべての人に最低限の生活を保証すべく、政府から一定金額を無条件で支給する「ベーシックインカム」導入の議論が活発化しています。
OpenAIの共同創業者兼CEOのサム・アルトマン氏など、テック系ビリオネアもユニバーサルベーシックインカム(UBI)を提唱し、ロボットやソフトウェアが経済を支配する時代の失業問題を解決できると主張しています。
大失業時代が来るかどうかはさておき、UBI自体をトライしてみること自体は良い考えかもしれません。過去数十年にUBIのパイロットプログラムは何回も実施されていて、そのたびに給付を受けた人はより幸福に、健康になっています。今までの実験を振り返って、何が行なわれどんな影響があったのか見てみましょう。
ニクソン大統領の実験
米国のリチャード・ニクソン大統領(当時)は、1969年にUBIプログラムを立ち上げ、少数のコミュニティで実験を行ないました。労働者家庭に無条件かつ継続的に、最低限の生活を支援する給付金を与えました。
ちょっと興味深いのは、このパイロットプログラムの責任者の1人が、後に保守強硬派の国防長官として知られたドナルド・ラムズフェルド氏だったことです。さらにこのときの部下が、彼と共にイラク戦争を主導したディック・チェイニー氏だったんですが、このコンビは福祉プログラムから戦争へ…その過程に何があったんでしょうね…。
ともあれこのUBI実験では、参加者の勤労意欲が削がれるのではないかという懸念は杞憂に終わりました。「『怠慢になる』という主張は、我々の発見では支持されなかった。悲観論者が予言したような、一斉怠慢とは程遠い状態だ」と、このプロジェクトのデータアナリストは言っています。
この成功により、ニクソン大統領のUBI実験は、より国家的な規模の計画へと発展しました。その計画は「Family Assistance Plan」と呼ばれ、4人家族には年間1,600ドル(現在の価値では10,000ドル≒150万円に相当)支給するはずでした。ニクソン氏は包括的な法案を提案したのですが、反対が多く、結局Family Assistance Planも中止になりました。ミルトン・フリードマン氏などの顧問たちが、ニクソン氏を説得して取りやめさせたとも言われています。
アラスカ永久基金
米国アラスカ州には、世界最長かつ最も成功しているベーシックインカムプログラムがあります。Alaska Permanent Fund(アラスカ永久基金)は、州内のすべての住人に年間1,600ドル(約24万円)ほどを支給し、すでに40年以上続いています。資金源はアラスカの最重要資源である原油と天然ガスから生まれる収入です。
この給付金は「配当」と呼ばれ、州民に無条件で毎年与えられています。UBI推進派は、価値の高い資源を共有資産として扱うこのモデルこそ、ベーシックインカムを国家レベルに拡大するための有望な手法だと主張しています。
コロナ禍の米国で
コロナ下のピークに失業者が急増する中、米国内では20もの自治体がベーシックインカムプログラムを実施しました。これらのプログラムでは毎月1,000ドル(約15万円)ほどが市民に与えられ、それが多くの場合1年間続きました。
Stanford Basic Income Labの報告書によれば、これらのベーシックインカムプログラムは、低・中所得世帯の必要最低限の生活を満たすのに役立ちました。給付金の使い道の36%は物品購入、31%は食品、9%が住居費・交通費、その他は医療や教育、旅行などでした。
ボルチモアの若者支援
米メリーランド州・ボルチモア市長は2022年、市と非営利団体CASH Campaign of Marylandの資金を元に、Baltimore Young Families Success Fundを立ち上げました。このプログラムはコロナ下の経済的打撃を緩和することが目的で、200人の参加者に対し毎月1,000ドル(約15万円)を与え、総額は480万ドル(約7.2億円)に上りました。その後の調査では、給付金の使い道が食品購入や車関係の支出、光熱費といった生活上必要なものだったことが示唆されています。
このプログラムは特定の人種を対象にしたものではありませんでしたが、支援先となったのは若く低所得なアフリカ系市民が中心で、彼らの普段の収入は年間1万5000ドル(約220万円)前後でした。21歳で2児を持つ女性は、今までは帳尻を合わせるのが難しかったが、この現金給付で家賃を払うことができたと言っています。
カリフォルニア州ストックトン市の例
カリフォルニア州ストックトン市は2019年にUBI実験を開始し、かなりの成功を収めました。SEEDと呼ばれるそのプログラムは2年間にわたり、低所得者125人に毎月500ドル(約7万5000円)を無条件で支給しました。
プログラムの分析結果は、それが参加者の生活体験を改善するのに役立ったことを示しています。参加者たちは、給付金を受けられなかった人に比べて「より健康だと感じ、抑うつや不安はより小さく、健全性はより大きくなっていた」とされており、給付金は主に必需品に使われたことが示されています。34〜40%は食品購入にあてられ、その他物品、車関連、光熱費、保険・医療、そしてごく少額のセルフケアといった使い道でした。このSEEDは、他の都市(特にカリフォルニア州内)での同様のプログラムを喚起したと考えられています。
フィンランドの実験
2017年、フィンランドは失業者2,000人に毎月560ユーロ(約9万円)を与えるプログラムを立ち上げました。2年間続いたこのプログラムは、フィンランドで従来行なっていた失業給付とは違い、現金給付のために課される条件がありませんでした。このプログラムの意図の1つは、無条件のベーシックインカムが従来の仕組みより就職率を高められるかどうかを見極めることでした。
プログラムの結果では、参加者の感情的には良い影響があることが示されましたが、就職率は特に上がりませんでした。そのためこの実験が「失敗」だったと評価されることもあります。でも、逆に言えば無条件のベーシックインカムがあっても、参加者の就業意欲は下がらず、従来とほぼ同じであることが示されました。
ロサンゼルスのCompton Pledge
Compton Pledgeは、Timeいわく「急進的なロサンゼルスの小規模な研究プロジェクトから、いつか国家規模のプログラムとして機能できるかどうか」を試すべく行なわれた実験でした。Compton Pledgeは米国最大規模のベーシックインカム実験とされ、「低所得市民に継続的な現金支援を2年間行なう」と言っています。
プログラム参加者は、Compton Pledgeなしでは手が届かなかった体験ができたといい、中には給付金を元に起業したり、NPOを立ち上げたりした人もいます。最終報告書には「市民は追加の資金を、疾病時の費用補填、起業、家族やコミュニティへの安定した環境の提供に使った」とあります。このプログラムの資金としては、私的な寄付も一部使われました。
ケニアのGiveDirectly
非営利団体GiveDirectlyは2016年、世界最大かつ最長のUBI実験をケニアで開始しました。極度の貧困家庭に無条件で現金を支給し、アフリカ中の数千人に合計3000万ドル(約45億円)支給すると言っています。参加者あたりの金額は毎月50ドル(約7,500円)ほどですが、現地で基本的なニーズをまかなうのにはかなり役立ちます。このプログラムでは、参加者に最長12年現金を支給する計画です。
最近発表されたGiveDirectlyの報告書では、彼らの分配手法が従来手法よりも貧困減少に高い効果を挙げうるとしています。初期の結果では、無条件の現金給付は「仕事のやる気を削がない」だけでなく、参加者に経済的な回復力を与え、起業家的にしたとされます。実験の初期の発見をまとめた報告書には、以下のようにあります。
UBIを受けたコミュニティでは、多大な経済的拡大と構造的変化があった。事業が増え、収入、費用、正味の収入が増えた。拡大に関しては非農業分野に集中していた。労働力の供給は全体としては変わらなかったが、賃金労働から、自己雇用へとシフトした。
全人類のための暗号通貨&身分証「Worldcoin」。利用前に瞳スキャンしてみた
OpenAIの創業者サム・アルトマン氏が手掛ける暗号通貨「Worldcoin」。利用にあたって虹彩をスキャンしてみた。
https://www.gizmodo.jp/2023/08/worldcoin-iris-scan.html